ナビゲーションシステムを用いた人工股関節

​ナビゲーションシステムとは

ナビと聞いて、何を思い起こすでしょうか。おそらく、車についているカーナビではないでしょうか。人工股関節におけるナビゲーションも車のカーナビのように、術中 に骨の位置や向きを把握して、目的の位置に導いてくれるものです。術前計画に沿って手術操作を行なうのを 手助けするためのツールです。カーナビゲーションでは事前に地図が入力されて、それにそって目的地までの経路を計画し、GPS用人工衛星からの電波で 車の現在位置を測定します。手術ナビゲーションシステムでは、手術前にCT撮影を行い、患者さんの股関節の形をコンピュータに取り込み、その患者さんにあった人工股関節の大きさやデザイン・設置位置・設置角度・骨移植や骨棘切除の量などを計画します。手術中は、骨に取り付けた赤外 線マーカーから出される赤外線を三次元センサーのカメラで捉えることにより骨の位置 と向きを測定しながら手術を誘導します。
術前計画通りに正確な位置に人工股関節を設置することは、術後の耐久性や可動域、脱臼予防にも大きく影響するためとても重要です。

ナビゲーションの使用方法

ナビゲーションでは、まず術前にCTをとり、骨の形のデータを取り込みます。そのデータに合わせて、どこにカップやステムを挿入するか計画します。

​手術中は、まず自分がどの位置を触っているか、実際の骨とナビゲーションに入れた骨のデータを一致させないといけません。そのためには、骨盤などの骨にピンを刺して赤外線マーカーを取り付けます。また、術具 にも赤外線マーカーを取り付けます。次に、赤外線マーカー付きペンプローベで骨の表面をさわり、 術前CT画像上の骨の画像と現実の骨の位置関係を一致させます。これにより、リアルタイム に骨の位置と向きを正確に計測することができ、モニタ画面上で術前計画を表示させながら術具の位置と向き を調整できます。

​ナビゲーションのメリットデメリット

ナビゲーションのメリットはやはり正確な設置が可能なことです。2~3度程度の角度の誤差や1mm程度の長さの誤差でインプラントの設置が可能となります。その結果、脚の長さを左右でそろえることが可能であったり、人工関節が長持ちできる角度に設置出来たり、脱臼しにくくもすることが可能です。

デメリットは、骨盤にピンを立てるために皮膚を別に切る必要があることや、手術時間が長くなることです。実際私自身も、ナビゲーションを使わない場合には通常40分から45分程度の手術時間ですが、ナビゲーションを使うと1時間から1時間15分程度かかってしまいます。手術時間が長くなると感染の可能性が増えるなど合併症の危険が大きくなります。

​病院選びとナビゲーション

以前、私が市民公開講座をした時に受けた相談で非常に印象に残ったことがあります。その方は、インターネットで色々と調べて、ナビゲーションシステムを行っている、少し遠い『J大学病院』で手術を受けたそうです。ナビゲーションを用いて、手術をしてもらったものの、手術後は非常に痛くてリハビリが大変で、手術した足が長くなってしまい歩き辛いし、脱臼してしまい日常生活が非常に怖いとのことでした。

​何でこんなことが起きてしまったのでしょうか。それは、人工関節の正確な設置はナビゲーションなくても可能であることと、人工関節手術の結果はインプラントの正確な設置だけではないからです。せっかくナビゲーションを用いて手術したのに、手術の方法がMISではなかったため、脱臼しやすく脚長だも出てしまったと考えられます。

ナビゲーションを使うと確かに正確に人工関節を入れることができます。しかし、熟練した整形外科医は、ナビゲーションが無くてもかなり正確に人工関節を設置することができます。また、手術中にレントゲンや透視装置で確認することで、ナビゲーションは必ずしも必要なわけではありません。あくまで手術支援ツールの一つなのです。

また、人工関節の術後の痛み脚長差脱臼しやすさは、インプラントの正確な挿入だけでは調整できないのです。そのような問題を解決するためにMIS(最少侵襲手術)などの工夫がされるようになってきています。

私自身もナビゲーションを使用することがあります。しかし、ナビゲーションの有無で、手術する病院を選ぶことは勧められません。