top of page

人工股関節(THA)後の脚長差

​ 脚が長くなった?

人工股関節THA後の脚長差で悩む.png

脚が長いと感じる理由ごとに見ていきましょう。

①実際に脚が長い

人工股関節のステムの位置や、ネックの長さなどで脚の長さは変わってきます。人工股関節が脱臼しやすい場合などは脚を延ばすことで安定させます。そのため、後方アプローチで手術した際に、脚の長さが長くなってしまいやすいです。脚の長さの左右差が2~3cm以内なら徐々に慣れてくるといわれています。それ以上に差がある場合にはインソールや補高を使用することもあります。私は、足の長さが長くなりすぎないために、脱臼しにくい手術方法を行っています。

→人工股関節の最少侵襲手術(脱臼しづらい手術方法))

​→​脱臼なんて心配ない(脱臼しづらい手術方法・インプラント)

②逆の脚が悪いとき

逆の下肢の関節が悪い場合には、逆の下肢が短くなります。そのため、相対的に手術した側の脚が長く感じられることがあります。関節が悪いときには、軟骨がすり減り骨がつぶれるなどで短くなるだけでなく、O脚になったり、膝や股関節が完全に伸び切らなくなることで見かけ上短くなります。

③外転拘縮

股関節を開く方向に動かすことを外転といい、逆に脚を組む時などのように内側に動かすことを内転といいます。股関節周囲の筋肉などが硬くなってしまうと、内転が出来ず少し外転のままになってしまうことがあります。これを外転拘縮といいます。外転拘縮になると、脚が長く感じられます。

THA後の脚長.png

​人工股関節(THA)した脚が長いと感じたら

*インソールと補高

インソールと補高は足の長さを調整するためのものです。インソールは靴の中に入れて、足の長さを調整するものです。靴の中に入れるため、大きな脚長差は補正できません。補高は靴底そのものを厚くすることで脚長差を調整するものです。

インソール.png

インソールも補高での治療は非常に良い方法ですが、どちらも家の中や入浴中はつけないため、完全に脚長差を感じずに生活できるわけではありません。また、2~3cm以内の脚長差にもかかわらず、インソールや補高を使用する時は要注意です。通常2~3cm以内の脚長差は体が慣れるといわれています。しかし、インソールや補高を使い同じ長さになっている時間と、脚長差がある時間を繰り返すことで体が慣れないどころか歩き方が曲がっていたり、骨盤が傾いていることで脚長差がある場合は、インソールや補高の使用で曲がりや傾きが悪くなる時も少なくありません。

わたしのお勧めは、2~3cm以内なら体を慣らすことです。膝や逆の股関節がしっかりと伸ばすためのストレッチや、腰や骨盤の側屈のストレッチを行います。同時に、歩行することで徐々に体を慣らします。また、4cm以上の脚長差の場合も、ぴったりのインソール・補高を作るのではなく、ちょっと短めに作ることを勧めています。そうすることでインソール・補高を付けている時と外している時の差で、体の感覚があまり狂わないようにしています。

脚長差の予防法

手術後に脚長差が出てしまった際の対処方法は解説しましたが、そもそも脚長差が出ないようにするためには、どうしたらよいのでしょうか。これは、手術方法インプラントが非常に大切になってきます。足の長さを長くのばさなくても、脱臼が起きないようにできれば、脚長差はでづらいです。また、脚長に差があるかどうか、手術中に確認しやすい手術方法で行うことも大切です。

脚長差が出づらい手術方法その①:最少侵襲手術(MIS)

​人工股関節の最少侵襲手術は、股関節の前側から筋肉を切らないで、筋肉の隙間から手術する方法です。筋肉を切らないので、痛みが少ないだけでなく、術後に股関節が非常に安定しています。脚を長くしないでも股関節が安定し脱臼しないですむため、脚長差が付きにくいです。

(詳細は→人工股関節の最少侵襲手術

脚長差が出づらい手術方法その②:関節包温存

​股関節の周りには関節包という固い袋状の組織が覆っています。関節包の表面にはいくつかの靭帯が付着しています。この関節包についている靭帯のうち❝腸骨大腿靭帯垂直成分❞(図の青い部分)を残すことで、さらに脚を長くしなくても股関節が安定してくれます。

(詳細は→人工股関節の最少侵襲手術

 

股関節と関節包.jpg
腸骨大腿靭帯垂直成分.png

脚長差が出づらいインプラント①:ステム側の形

大腿骨の上の部分には、多くの筋肉や関節包が付着しています。この筋肉や関節包が切れてしまうと、股関節は不安定になり、脚を長くしなくてはならなくなります。

​ステムの一部は張り出したような形をしていると、筋肉や関節包を傷つけてしまいやすいです。逆に、ステムの外側が凹んでいる形では、傷つけずに挿入することができます。

頚部外側の筋付着.png
ステム選択.png

脚長差の出づらいインプラント②:デュアルモビリティーシステム

通常は、これまでの方法で脚が長くなりすぎることは、まずありません。ただ、関節がもともと非常に柔らかかったり、すでに一度手術を行った後だったり、脚を短くしなくてはならない時には、特別なインプラントを使います。​ライナー自体も動くことで脱臼しにくくするデュアルモビリティーカップや、ライナーの上からリング状の蓋を被せることで脱臼させないようにするコンストレインライナーなどの特殊なインプラントです。

​→『脱臼を繰り返したら』も参考にしてください

DMB.jpg
コンストレインライナー.jpg

脚長差を確認しやすい手術方法:仰臥位手術

​人工股関節の最少侵襲手術でも、患者さんが仰向けに寝ている状態で手術をする方法(ALSやDAAと言われるもの)と、患者さんが横向きに寝ている状態で手術をする方法(OCMなど)があります。私は、仰臥位で行う方法でおこなっています。この方法では、両方の脚の長さを簡単に比べることができます。こうすることで、手術中に脚の長さ調整が可能となっています。​

bottom of page